20数年前のことですが,指揮者の小澤征爾さんと同じエレベーターに乗ったことがあります。指揮者コンクールかなんかの審査員をしていたようで,たまたまその会場で僕もアルバイトをしていました。エレベーターに乗っていたら,偶然,小澤征爾さんが乗り込んできました。
満州国に興味を持つようになったきっかけは小澤征爾です。世界の大指揮者である小澤征爾は満州国で生まれました。偉大なマエストロが生まれた満州国とは一体何なのか。
日本近代史上の夢か幻かと感じずにはいられない満州国。この本,1894年の日清戦争勃発から1956年の最後の引き揚げ船が舞鶴港に入港するまでを,当時の様々な思想や関係各国の思惑を整理しつつ明快に書かれています。著者曰く「歴史の記述には道徳的価値判断を介入させてはいけない」とのこと。つまり,自虐史観に染まることなく,ということか。
満州に入植した日本人は教育や大衆文化の隆盛に力を入れ,オーケストラも盛んだったようです。戦火と隣り合わせのような情勢でしたが,満州の人々はオーケストラの奏でる音楽をどのように感じていたのでしょうか。きっと心を癒してくれたことと思います。芸術は精神を育てます。想像力,考察力,品性を高めてくれます。建国間もない満州国だからからこそ,芸術や文化の力が必要だったのではないかと思います。どんな時代においても,いかなる困難があろうとも,音楽への情熱が冷めることはありません。