里山讃歌

ALの小春と過ごす田舎暮らしを綴っています

海の史劇

吉村昭『海の史劇』読了。

 

昨日,今日とこの冬一番の寒さ。散歩などしていると,大陸からやってきた大寒波によってエネルギーを増幅された冷たい空っ風が体に突き刺さり,骨の髄まで沁みわたります。それはそれは寒いですね。

 

明治という過渡期は,文明開化により西洋の合理性が国づくりや人々の暮らしに深く入り込んできました。富国強兵や殖産興業などの政策を前面に掲げ,人々は前のみを向き,必死になって働き,重税に耐え,国という体裁をなしていきました。そんな時代の完成期に出会ったのが,大国ロシアとの死闘である日露戦争でした。

 

安定安心の吉村文学。史実に基づいて書かれた分かりやすく読みやすく面白い文章。この「海の史劇」は日露戦争,それも日本海海戦がクローズアップされています。「坂の上の雲」のように大日本帝国海軍秋山真之東郷平八郎が主ではなく,ロジェストヴェンスキー提督率いるロシアバルチック艦隊からの視点で描かれています。

 

バルチック艦隊は,日本艦隊を撃滅すべく太平洋以外のすべての海を7か月余りかけ苦難の末に大航海して日本海にたどり着き,わずか三日間の戦闘で全滅してしまうという無残な運命をたどります。

 

まさに空前の記録文学。名高い日本海海戦の劇的な全貌が詳細に描かれています。その克明に描かれた内容から,読者は,今,まさに眼前で繰り広げられている歴史上初めての大艦隊同士の壮絶な打ち合いを目の当たりにしているような錯覚に陥ります。

 

文中に垣間見ることができる明治人の気質にも注目。波間に漂う敵兵をできうる限り救出し,医療や食事などを万全にし,捕虜として温かく遇している。総崩れになった敵艦隊から逃れる一隻の駆逐艦を「武士の情け,深追いするな」と見逃している。敵将のロジェストヴェンスキーは重傷を負い救出され佐世保の病院に収容され,東郷平八郎は直ちにこれを見舞い「敗れたとはいえ,閣下のような立派なお方と戦ったことを光栄に存じます」と慰めの言葉をかける。

 

私の母方の祖父は明治生まれで(二十数年前に他界),私が何かいたずらなどするものなら「こらっ!」と烈火のごとく怒るようなこわい人でした。その祖父と接した経験から「明治人はこわくて頑固者」というイメージがありましたが,「海の史劇」から読み取れる明治人の気質は人間愛に満ちたものでした。

 

そういえば祖父は酒が大好きで欠かさず晩酌し,時々昼間から飲んでいました。酔っ払うと,いつも「戦争中は陸軍に召集され帝都駒沢の練兵所にいたんだ,,」とか「乃木大将が,,,」などと語っていました。私は小学生だったので何のことやら詳しく分かりませんでしたが,今思えば,戦時中の貴重な生きた証言だったような。酒を注いでもう少し詳しく聞いておくべきでしたね。

 

さて,オーストラリアンラブラドゥードルの小春さん,快食,快便,快眠,毎日寒くて,暖をとるための工夫に励んでいます。

 

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布団の中が大好き。人間も小春さんに温めてもらっています。

 

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エアコンからの温風が直で当たるポジションもよくわかっています。

 

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毛布の上でのへそ天開脚,気持ちよくてやめられません。

 

寒風吹き荒ぶ中,元気に散歩をしています。

 

海の史劇 (新潮文庫)

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